心と身体が噛み合わない。

どちらを優先すればいい?


36.ウラハラな体温(1)


 午前中のダイビングは大盛り上がりだった。空き時間にダッシュでフラッグを取る競争したり、バレーをしたり。強いて言うならダイビングスーツが暑かったかなーという感じ。
 午後は着替えて、バスで市内見学。パイナップルパークや、お土産物屋さん巡り。四六時中テンションを上げてはしゃいでいたら、あっという間に時間は過ぎてしまった。
 夕食を食べ、お風呂に入る。本来なら、みんなのスタイルの良さにわーきゃーするはずだったんだ、けれど。
「いだっ、痛い痛い痛いーっ」
「大丈夫か?」
 
身体を拭きながら、タオルが首の後ろに当たった瞬間。泣く程の痛みが走る。ぴょんぴょん跳ね回ると、髪の毛が当たって、ますます、やばい。神奈に後ろを見せると、声をあげた。
「瑞希、ひどいぞこれ。首から背中まで真っ赤」
「うそぉっ」
「ちゃんと塗れてなかったんだな。これ、多分寝る時痛いと思うぞ」
「え、瑞希ひどいねこれー」
「やばいやばい」
 
うう。クラスのみんなにまじまじ裸の背中を見られるのは、恥ずかしいものがあります。いや、日焼け見てくれてるだけだと分かってるけどね。同性だしね。しかし、恥ずかしい!!
 とりあえず、ひんやりするローションを友達に借りて、塗っておく。熱を持った身体は、少しだけ、納まった。恐る恐る、ゆったりしたTシャツを着て息を吐く。
 ……はぁ。まだ全然痛い、けど、さっきよりはマシだ。
 明日は水風呂につかろう、そして背中中心に日焼け止めを塗ろう!!と決意を固める。お風呂の湯気も肌に痛いので、先に出て外でみんなを待っている、と。
「柳」
「山元。それに田口くんも」
「もう上がり?」
「うん。次、男子だっけ」
 不意に、ジャージ姿の二人が現れる。
 一日目は男子、女子の順番でお風呂だったけど、二日目の今日は昨日と逆。時間ずらさなくてもいいじゃないか、と思うけれど、うっかり覗く馬鹿がいないように、とのことだ。
「他のみんなは?」
「あ、私先に出たの。日焼けひどくて、お湯に浸かってられなくて」
 
ほら、と振りむいて、髪を掻きわけて項を晒す。指先が触れるだけで、ちりりと走る痛み。田口くんが苦笑を洩らすのが分かった。
「それ、かなり痛いでしょ?」
「うん、やばい。背中も真っ赤なんだよ」
「……へぇ」
 俯いたまま、返事をする。
 そう言えば、さっきから山元、全然口開かないな。どうしたんだろ。開いたら開いたで、心臓に悪いことしか言わないんだけどね。だけど、突如。背中に不穏な気配を感じ、振り返ろうと、すれば山元に。くい。と、引っ張られた。
「確かに、真っ赤だな」
「◎△□☆!?」
 
――Tシャツの、襟の部分を。
 ゆったりしたTシャツだから、そうすれば背中が丸ごと見えるはず。山元みたいに背が高ければ、ちょっと覗きこめば、簡単だ。そう。背中、全部。
「な、な、な、な、な、何して、んのよーーーーっ!!」
 ……
それはつまり、下着も見えるってこと。慌てて距離を取ろうとするけれど、山元は手を離さない。振り返れば、にやにや笑いで私を見ている。
「何って、背中、見た」
「あ、あんた、なっ、だっ、」
「別に水着と変わんないし、いいだろ」
「な!?」
 
確かに、ビキニでしたよ。それはイコール下着と同じかもしれない、けど。心では片付けられないって言うか!!
「恥ずかしい?」
「ああああああ当たり前でしょ手離してってば!!」
 
混乱しすぎて、叫ぶことすらまともに出来ない。じたばた山元の手から逃れようともがいてみるけれど、お腹に腕を回した。さり気なく背中側には触れないように気を使ってくれてるけど、でも、でも!!
 密着度上がってる、やばい、死ぬ。
 本気で目を回し半泣きな私に、田口くんは苦笑を洩らし、山元の肩を叩いた。
「恍、もう離してあげなって。柳っち可哀想」
「あ?まだ」
「何言っとるかー!!」
 
まだって何だまだって!!もう無理ー駄目ー離してー!!
 手にはバスタオルやら荷物抱えてるから、肘で山元をぐいぐい押す。でも、離れない。それどころか、力が強くなって。耳元に、熱い吐息が掛かる。
「柳。次、ビキニなんて着てみろ。こんなもんじゃ済まないからな」
「!!?」
 
何それ。こんなもんじゃ済まない、ってなにされるの私!?
 その時私はとにかく余裕がなく、「何であんたに!!」なんて怒ることも出来なかった。とにかく、背中の痛みやら熱以上に、山元の手が、熱くて。
「分かった?」
「っ分かった、分かったからっ!!」
 
――悪魔の囁きに、あっさり頷いてしまう。
 山元は私の言葉にふっと笑うと、手を離した。慌てて距離を取り、壁に張り付く私に、山元はにやにやと頬を緩める。
 し、信じらない変態変態!!人の下着見て抱き締めてにやにやするとかホントありえない!!
 涙目で睨むと、山元は口を開いた。
「お仕置き終了」
「何で山元にお仕置きされなきゃいけないの!!」
「肌見せるなって言ったのに、スーツ脱いでただろ。項も、他の奴に晒すな。風呂上がりの姿なんかも、他の男に見せるな」
 
全て命令形で言い切り、山元は満足げに頷く。
 横暴!!馬鹿!!時間余って水遊びして、スーツが邪魔で脱いで何が悪いのよ!!
 叫びたかったけど、ぐっと我慢した。だって、言ったら絶対、また、何かされる。唇を噛み締めて、山元を睨むのに留めると、笑ったままこっちに歩いて来る。
 い、いやぁぁぁ!!
 ――が、救世主はいらっしゃった。
「はい恍、いい加減セクハラはやめなさい」
「ちっ」
 
田口くんが、山元の腕をしっかり掴んでくれている。
 ありがとう!!本当にありがとう!!田口くんは私の心のヒーローだよ!!
 そのまま、無理矢理方向転換する。
「まだお風呂まで時間掛かりそうだから、俺ら部屋に戻るよ」
「う、うんっ」
「柳っちも、これ以上恍にセクハラされないために、あんまりうろちょろしない方がいいかも」
 
苦笑混じりに言われた言葉に、ぶんぶん首を縦に振る。
 なんか山元の思惑通りになった気がしてすごーく癪なんだけど、仕方ない。喧嘩腰に歩いて行く二人を見送り、大きくため息を吐いて。そっと、お腹に触れる。ここに、あのがっしりした腕が、触れていた。その感触がたまらなく、生々しく、恥ずかしくて。
 顔を赤くしていたら、出て来た神奈たちに顔まで日焼けしたのか、と心配されてしまった。


  

inserted by FC2 system