誰に何て言われようと。

君の一番が私じゃなくても。

そんなの、関係ない。

私は君が、好きだから。


DEAR MY STAR 〜プロローグ〜


 走る、走る。風のように人と人の間を抜けて、そして。
 ―バスッ!!
「陸人ーないっしゅー!!」
 
彼が放ったシュートは、綺麗な弧を描いてゴールネットを揺らした。興奮して、私は大声で叫ぶ。
 何年もサッカーという競技を見ている私は、未だにゴールが入ったら一点、というのしか分からない。情けないけれど、この鳥頭に勉強以外を詰め込んだらすぐさまパンクしてしまうだろう。自分でそう分かっているから、無理はしないことにしている。
 シュートを決めた彼――陸人は、私の歓声に見向きもせず、すぐさまDFに切り替えた。それを、フェンスに縋り付いて見つめる。一瞬だって見逃せない。瞬きすら、私は見納めておきたいんだ。と、昔友達に言ったら呆れられた。「あんたはストーカー?」って。まぁ、否定は出来ないんだけど。

 だって、ずっとずっと、好きだった。
 小三の時、今より小さな彼がグラウンドを駆け抜けた、夏の日。
 私は彼に、恋をしたんだから――。

 やがて、試合終了の笛がグラウンドに鳴り響き。陸人は、自分のベンチに戻り、マネージャーの子にタオルを受け取っている。それを見て、ちりりと音を立てる心臓を自覚しながら。私はそっと、フェンスから離れて、みんなと同じ出口を目指した。
 会いたいけど、今日は会わない。『彼女』だからって、全て許されるとは思っていない。
 だって、どう足掻いたって無意味だから。真っ直ぐな彼の視線の先は、常に綺麗な芝生の上。私の大好きなあの瞳は、決して私を映さない。
 そんな風に思って、口から苦笑いが漏れた。
 ……それでもいいと、思っていたはずなのに。いつの間にか傲慢になっていく自分が、歯痒くて。口を引き結んで、私はもう一歩、踏み出した。




背中にぶつかる夏の陽射しは暑く、強く。
このまま、私の思いも溶けてしまえばいいのに。
そう、願わずにはいられなかった。


  

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