とにかくにも、お幸せに、ってか?


In The End



「卒業おめでとうございまーす!!」
「ありがとー」
 卒業式が終わった直後のグラウンド。元気一杯に響く野太い声(一部のみ可愛い)に笑って応答をする先輩方。陸上部では毎年恒例だ。一人一人に、花と色紙を贈る。長距離の人は少ないので、俺の分担はもう終わり。人数の多い短距離は、いまだワイワイやっていた。
 ――あれ?つーか山口は?
 部内では一番仲の良い、山口聡の姿が見えない。辺り一面見渡すが、いない。どこ行ったのかなーなんて思いつつ、探しに歩いたら、簡単に見つかった。輪を抜けたところに、立ってる。……ひとみ先輩と一緒に。
「……あー」
 何だか探しに来た自分が、微妙にむなしい。
 なんなんだよ、お前のその甘ったるい笑い方は!!大好きなものでも見るような視線は!!つーかさり気なく手握ってるし!!
 思わず心の中で突っ込んでしまうが、自分の世界に入ってるあいつは気付かず。横で照れ臭そうに微笑んでいるひとみ先輩も、しかり。

 山口がひとみ先輩に惚れてるのは何となく気付いてた。何か目が尋常じゃなく甘いし。
 ただ、ひとみ先輩には多分、好きな人がいた。その相手は憶測だが、柳原部長。つくづく報われない片思いしてるもんだ、と一人思う時もあった。
 ところが、ひとみ先輩が事故から復帰して以来、ゆっくり、だけど着実に二人の距離は近付いて行った。もう、ただの先輩と後輩じゃ済まされないだろうレベルまで。

 まぁここら辺は全部、俺が考えたことだから真実は知らない。今も付き合ってるのか、焦れったい関係を続けてるのか。
 ――だけど、お互いを大切に思ってるのは知ってる。
 山口本人からは聞いたこと無い。正直それは信用されてないのかよ、って感じで少し寂しい気もするが。まぁいつか話す気になったらそれでいいや、って感じで気長に待つ。
 あの二人が、お互いが大事なように。俺に取ってもあの二人は、大事な存在だから。
 山口はなかなか本音を見せないけど、すごいいい奴だって知ってる。んで、ひとみ先輩はそんな山口をちゃんと支えていける優しい人だって知ってる。反面、二人ともすごく不器用だけど。
 上手くいけば、きっとみんなに祝福される、優しい関係でずっと、在るから。俺はそう、願っているから。
 だから、そんな二人に、空に余った花を掲げて。

「――お幸せに、お二人さん」

 微笑みを分け合う二人に、捧げる花を。彼らと同じ幸せの笑みを、この顔に浮かべて。

 手を伸ばせば、青い空。眩しい日差しに、目を細めた。どこかで誰かが歌を歌ってる。それが、俺には何だかあの二人への手向けの歌に聞こえた。
「って俺どんだけ詩人なんだっつの」
 苦笑して、もう一度彼らを見て微笑み、そっと立ち去った。
 山口を苛めるのは、後でゆっくり。とりあえず今は、優しく見守ってやるとするか。








***
本編締めは、まさかの吉田くんでした(笑)
彼は部活の後輩マネージャーと付き合ってる、なんて設定もあり、それを書こうと思ったんですが、長くなるので省きました。個人的に、すごく良い子だと思います。




おまけ

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