一番 嫌いな色は 赤

 閉じ込めたい過去を 思いだすから


 〜prologue〜


 月曜日。仕事から帰って来てポストを覗くと、珍しくダイレクトメールとちらし以外の郵便物が届いていた。首を傾げつつ、玄関ポーチでそのはがきを手に取る。
「芹川高等学校……?」
 卒業した高校の名前の横に、親友の名前があった。ぱちぱち、瞬きをしてはがきをひっくり返す。プライベートではあまり見たことがないけれど、往復はがきだ。その文面をまじまじと読んで、背筋にひやりとしたものが走った。
「……同窓会」
 日付は、三か月先の六月になっていた。考えてみれば、卒業してもう六年。同窓会が行われていい頃だろう。今まで考えもしなかった自分に、ため息を吐いた。
 迷いながらも、はがきを玄関の下駄箱の上に置いて部屋に入る。三月と言えど、まだまだ春の気配は遠い。それに私が暮らしているのは、築四十年の木造アパート。隙間風も吹きこんでくる。最近、やっとあったかくなってきたかな、という程度。コートの上から自分を抱きしめて、小さくくしゃみをしてエアコンのスイッチを入れた。
(……何て言って、断ろうかな)
 なんて。すでに断る方向に思考が傾いている自分に、苦笑した。
 ――もう、六年。
 さっき自分で数えた年数に、改めて驚きがこみあげる。未だにこの胸は、彼を思うとじくじくと痛むのに。
 初恋という名の、未練なのか、執着なのか。
 私はいつになったら、彼を、忘れられるんだろう。

「……きっと、いつまでも無理だろうな」

 もう一つ、苦笑いを零してコートを脱ぎ、ハンガーにかける。明日は早番だ、早く寝てしまおう。今日は久々に、ホットミルクでも作って飲もうか。あれはいい。悪い夢も見ずに、ぐっすり眠ることが出来るから。
 もう何も、思いだしたくないから。



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