オイシイ関係? 3(後)


 午後七時四十分。平日の夕飯より、大分早い。小さめの丸テーブルには、今日はところ狭しと食事が並んでいた。
 きのことそぼろのご飯、茄子と玉ねぎの味噌汁、カレイの煮付け、卵焼き大根おろし添え、つるむらさきのおひたし。食卓に並べてみると赤が足りなかったので、常備菜の山芋の赤紫蘇漬けと、実家から送られてきたトマトを切って食卓に並べてみた。
 気付けばネクタイを緩めていた係長、見慣れない姿に目を丸くする。ボタンも外されていて、係長ファンがいたら興奮間違いなしだろう。がっしりした首筋、ちらりと覗く鎖骨、前に張り出した喉仏。
 男性の首筋が好きだと言う女性は、意外と多い。かく言うわたしも、結構好きだ。女性とは違うからこそ、惹かれるのだろう。係長の場合、見慣れないからこそまた、目を奪われる。それは若い人とは違う、二十代後半だからこその、何と言うか、色気を感じる。
「神代?」
「ああ、すみません。それじゃあ、食べましょうか」
 気付けば、まじまじ見ていたらしい。訝しげな顔をする係長に笑って、手を合わせる。係長もそれに倣い、二人で「いただきます」と声を掛けた。
「係長。何かテレビご覧になりますか?」
「……いや、かまわない。食事中はあまり見ないから」
 ふと、リモコンを係長に向けると、おかずに箸を伸ばしていた係長は首を振った。予想どおりな人だ。係長はリモコンをそのまま床に置くわたしを静かに見据えた。
「神代が見たいものがあるなら、つけてくれ」
「いいえ。わたしも実家の母が、食事中にテレビをつけるのが嫌いな人だったので大丈夫です。一人暮らしを始めたばかりのころは慣れなくてつけていたんですけれど」
 家族の気配が無くなり、一人の食事に落ち着かなくて、テレビをつけたり音楽を掛けたりしていたあの頃。三か月も経つと、逆に静かな方が落ち着くので止めた。電気代も気になるし。
 わたしの言葉に目を細める係長は、黙って味噌汁を啜る。その姿を見て、何故だかまた、笑いが込み上げてくる。
 考えてみると、何度か一緒に食事に行ったけれど、座敷はなかった。だから今、向かい合って正座していることが、おかしいのかもしれない。道場に通っていると言う係長の正座は、とても決まっている。ぴしりと背筋も伸びていて、もう少し足を崩しても、とは言いづらい。
 だけどそんな係長は、味噌汁を飲んで少し目を丸くする。口には出さなくても、ご飯を食べる箸のスピードは早い。煮付けを食べてため息を吐いて、つるむらさきをゆっくり噛み締める。
 言葉にしなくとも態度で示される、美味しい、ということ。特に手も込んでいないお惣菜ばかりだけど、係長が喜ぶのならそれで良い。
 ただもう、それだけで良い。

* * *

 係長のスピードに合わせるように箸を進めていたら、あっという間にお皿が空になっていった。一人じゃない食卓が、楽しかったのもあると思う。会話なんてなくても、そこに誰かがいるというのは、それだけで落ち着くものだから。
 食べ終わった食器を重ねてお盆に乗せ、流しに運ぼうと立ち上がると、係長に手で制された。首を傾げると、わたしの手からお盆を奪い取り、歩き始める。慌ててわたしも立ち上がるけれど、係長は止まらなかった。
「スポンジは、これを使えばいいのか?」
「そうですけど、係長、大丈夫です。お客様にそんなこと、させるわけにはいきません」
「美味い手料理を食べさせてもらったんだ、少しはやらせてくれ」
「そのお気持ちだけで、十分ですから」
 身長が高く、肩幅も広い係長が流しに立つと、何をやっているのかほとんど分からない。脇から覗きこんで発言しても、係長の手元は止められないし。同性の友人ならば横から手を伸ばして奪うことも出来るけれど、係長は上司だし、異性な訳で。
 だけど食器を種類別に分けて重ねた係長は、そこで首を傾げて、辺りを見回した。
「神代、洗い桶はあるか?」
「……へ?」
「洗い桶だ。あと、古新聞もあれば」
 突然の言葉に目を丸くするわたしを、真剣な表情で見つめる係長。訳が分からないけれど、とりあえず口を開いた。
「洗い桶って、あの、水をためて洗う桶ですよね」
「ああ」
「我が家では、使っていません。新聞紙もありませんが、古雑誌なら……」
「それは、破って大丈夫か?」
「え、あ、はい」
 とりあえず、古紙が必要らしいので、机の脇に置いてある古雑誌を取り出した。その内の一冊の、適当なページを二三枚破る。それを係長に渡すと、お礼を言われた。そして、その紙を使って汚れた食器を拭き始める係長。
 その手慣れた様子に目を丸くしていると、あらかた汚れを拭きとり終わったらしい。次にコップやトマトを盛り付けるのに使った、ガラス系の食器を洗いはじめた。それが終わったらお箸やお椀などの木製のもの、最後に陶器。全部洗ってから水で流して、横の水切り籠に綺麗に並べていく。
 気付いたらあっという間に終わっていて、わたしはひたすら目を丸くした。けれど上司に結局全てやらせてしまったことに気付き、慌てて頭を下げる。
「係長、申し訳ありません」
「俺から言い出したんだ、気にするな。食器を拭くのは?これでいいのか?」
「あ、わたしがやりますっ」
 今度は遅れまい、と目の前に下がった布を取って食器を拭いていく。いつもは食器は拭かずに自然乾燥なんだけど、それを言うのは何となく憚られる。そして拭き終わった食器を仕舞おうとシンク下の収納スペースを開けると、係長がちらりとそれを見て、あっけに取られていた。
「……これは、取り出しづらくはないか?」
「ええと……まあ、はい。そうですね」
 その呆然とした感じの声が、今は何だか非常に恥ずかしい。
 二段に分かれているそこは、下が大皿と鍋、上はコップや調理器具、小さいお皿、とかなり雑多な分け方をしている。使ったものはどんどん上に重ねていくので、たまに違う種類のお皿を使おうと思っても、上の方を全部下ろさなければいけないので、非常に面倒だったりする。何度かこれでは駄目だ、収納方法を変えなければ、と決意するものの、いつもしばらくすると面倒な気持ちが顔を出してきてしまい、元通りになってしまう。

 良くも悪くも、わたしは大雑把な人間なのである。
 だから料理は出来るのだけれど、お菓子作りは非常に苦手だ。ある程度の分量を守れば、そこまでキリキリしないで済む料理と違い、お菓子作りはグラムを間違えれば大変なことになるし、全部出来あがってからでないと出来が分からないので、途中で味を見て色々足すことも出来ない。また、細かい工程も面倒臭い。
 だから、そんな大雑把な人間に丁寧さや綺麗さを求めても無駄だと思う。もちろんわたしは掃除や後片付けは大の苦手であり、嫌いだ。プライベート、しかも自分だけの空間なのだ、別にそれでも構わないはず。もちろん仕事で手を抜くことはしたことはないし、これからも絶対にしないつもりである。

「……ので、これは、見逃してほしいんですけれども」
 そのようなことをぼそぼそと言い訳がわりに話してみると、係長は顔を背けて黙りこくってしまった。いい加減な部下に呆れたのか、それとも、まだ驚いたままなのだろうか。少し情けなさと痛みが胸を刺して、肩を窄めて俯いた。
 ――だけどその内、それが違うと言うことに気付く。
 係長の震える肩、前に倒れ込む上体、口元に手を当てる仕草。それは、どれも。
「……係長?」
「っ、す……すまない」
 係長の今の状態に思い当たって、低い声で呼んでみると、とうとう堪え切れなくなったのか、くつくつと笑い声が耳に届いた。そして彼は、心底おかしそうに、わたしを振り返る。

 笑いすぎたせいか、潤んだ瞳。
 頬に小さく出来た笑窪。
 目尻に出来る皺は、優しい雰囲気を醸し出す。

 あまり笑わない係長。正確に言うと、こんなに大笑いしている係長を見るのは初めてだと思う。それが目の前で、見られるなんて。
 とびきり贅沢な晩餐よりも、わたしにとっては素敵なデザートみたいなものかもしれない。だって、その笑顔を一目見たら、ささくれだっていた気持ちが、途端にぱちんと弾けてしまった。替わりに過ぎるのは、ただひたすらに、甘い気持ち。
 ふわふわと、今にも溶けてしまいそう。でもそれは嫌じゃなくて、さらりと心地良く心を滑る。その極上の甘さに、思わずこくり、唾を飲み込んでしまう。
 まるで気付かなかった自分の気持ちに、素手で触れられたようで。

「笑ったお詫びに、ここの片づけをさせてくれないか」
「え?」
 だけど突然。思考の深みに沈んでいたのを止めるように声を掛けられ、間抜けな返事をしてしまう。そんなわたしにまた小さく頬を緩めながら、係長はしゃがみ込んで中のお皿を取り出し始めた。
 止めようと思いつつも、楽しそうなその雰囲気に負けてしまい何も言えず。わたしはただ、水切り籠に入っている食器を、順番に拭いていくばかり。
 それからしばらくは、カチャカチャと食器同士がぶつかる音だけが、静かな空間に響いた。それが何だか緊張してしまって、口を開く。
「それにしても、係長、家事お得意なんですね」
「そうか?」
「ええ。さっき食器を洗ってくださった時もすごく手早かったですし、古紙を使ったり、なんだか手慣れていて」
「ああ。実家があの方法を使ってるんだ。うちは共働きだったから、俺も自然と家のことをやるようになって、料理以外は一通り出来る」
「すごいですね」
「そうでもない。普通だと思うぞ」
 係長は平然と言うけれど十分すごい。男の人は家のことは基本的に何もやらないと言うし、うちの弟や父も、わたしや母が言わないと何もやらないし出来ない。料理が出来ないとは言うけれど、それ以外が出来るのなら十分だと思う。
 そこでまた沈黙が訪れたけれど、今度は係長が口火を切った。
「それにしても、神代が掃除が苦手だというのは、意外だな」
「そうですか?」
「ああ。朝、部署の片付けをよくしてくれているだろう」
 その声が、やはり好きだな、と思いながら相槌を打つ。だけど朝の掃除のことを知られていることには、少し驚いた。だってそれは秘書の先輩以外、誰も知らないと思っていたから。
「一年程前、忙しくて帰る暇がなくて、仮眠室で何とか睡眠を取ってた頃があったんだ。その頃部署を覗いたら神代が掃除をしているのを見掛けて、それ以来、お前が朝早いことは知っていた」
「そんな時期が、あったんですか」
「まああの頃は、色々と仕事が重なっていたからな。今は普通に仕事をこなしているから、そんなことはないはずだ」
 一年前の今頃と言えば確か、係長が今の職に就任した頃だったはず。確か元の係長が体調を崩して、その分の仕事がほぼ全て、当時主任だった係長に回って来ていたんだった。
 ……そうか。あの頃は自分の仕事を覚えるのに必死でそんな係長の状態を気にしながらも声を掛けたり出来なかった。そもそも係長が、そんな辛い状態だと言うことを顔に出さなかったので気付きもしなかった。そんな、家に帰る暇もないくらいギリギリの状態だったというのに。自分の分と他人の分の仕事を背負い込みながら、新人教育もして。それは、今もそう。だけどそれを誰に見せることもなく、淡々とこなしていく。
 ふと手を止めて、ぼんやりと係長の背中を見つめる。それはとても広くて、頼りがいがあるのに。
 どうしてだろう。どうしてわたしは、この背中を、支えたいと思うのだろう――。
「……それ以来だな」
 ぽつりと落とされるその呟きに、心臓が大きく跳ねる。だけど何とか堪えて、すぐに返事をした。
「何が、ですか?」
「……」
 わたしの声が聞こえていたのかいないのか、係長は何も言わない。だけど手は止めずに、収納棚から大皿まで全て取りだして、それから順番に詰め始めた。カタン、カタンと重い食器の音。易々と持ち上げるその太い腕を見ていると、係長が急にこちらを見上げる。
 真っ直ぐなその瞳に、視線を逸らすことも、敵わなくて。いつしか、吸い込まれるように夢中になっていたから。
「――神代が、気になり始めたのは」
 最初、何を言われたのか、分からなかった。

「……は?」
 喉から絞り出された声は、何とも細く、掠れている。
 意味が分からない。どうしてここで、そんな台詞が出てくるんだろう。気になる、って、それはどういう意味だ。普通に考えれば、それはそういう意味なのだろうけれど、係長がわたしに向かってそんなことを言うとは考えられないと言うか、……だって、ありえないでしょう。
 静かに混乱するわたしを見て、係長はまた頬を緩める。それだけで反応する自分の心に、気付かない訳ではない。だけどそれは、今まで全く、その存在に欠片も気付いていなかったものだから。自覚していきなりの展開に、目が回りそうだ。
「鼻歌まじりに掃除をして、飯を食べてるお前が、あんまり平和だったからな。その頃精神的に疲れてたのもあったのか、やたらと興味が沸いたんだ」
「は、ぁ」
「それ以来、気付けば神代を目で追っている自分に気付いた。しかも神代は、料理も得意だと言うし、それでますます惹かれた。だけど俺は上司だから、下手に言い寄ればお前に気まずい思いをさせるだろうし、仕事もやり辛くなるだろうしで、かなり悩んだ。あの日の朝早く来たのは、半分、賭けだったんだ」
 だからもちろん、係長のこんな返し、想像できる訳がない。
 信じられない。わたしと係長の関係は、ご飯がメインで、係長にとってわたしは、サブだったはずなのに。
 いつもの通り淀みなく、淡々と話す係長。それは提出した書類の間違いを正す時と同じで、でも、どこか少し声が甘いような。わたしの願望かもしれないけれど、そう感じる。……本当に、嘘みたい。
「神代」
「……は、い」
 だけど見慣れない係長の微笑みが、現実を知らしめて。その唇が紡ぐ自分の苗字に、返事をする。それに係長は、満足そうに頷いた。

「だから、俺と結婚してくれ」
 さっき以上の爆弾発言を携えて。

 今度は絶対に、聞き間違いじゃないと思う。ぱくぱくと、口が勝手に動いてるから。呆然とするわたしの目の前、係長はゆっくりと立ち上がって視線を合わせる。途端にひっくり返る視線の位置、だけどいつもと同じそれに、少しだけ、心が落ち着いた。
「この年だから、人並みに結婚願望はある。疲れて帰ってきたら美味い飯と誰かに出迎えられたいとも思う。だけど昔は誰でも良かったはずなのに、今は、その誰かが、神代であれば良いと思っている」
「……」
「一生、俺のために、飯を作ってくれないか」
 耳に流し込まれるのは、まぎれもない、プロポーズ。
 それ自体は、驚きながら嬉しいと思うのに。だけどどうしても、納得できない気持ちもあって。
「係長」
「ん?」
「わたし、そんなに頑張れないです。係長にお弁当作っていたのは一週間に一度だから凝ったものも作れたし、たまにだから頑張れただけで。普段はレトルトで済ませることもありますし、毎日自炊は、無理です。面倒臭くて出迎えとかしないかもしれないですし、つまり、その。係長が望むような、出来た奥さんには、なれないと思うんです」
 確かにお弁当は作っているけれど、係長に渡さない日は牛丼とか、ウインナーだけとか、そんなやる気がない日はよくある。平日の夜は面倒で、レトルトやコンビニ弁当も少なくない。だから係長がわたしとの結婚生活にご飯とか良い妻を求めるのであれば、わたしは絶対に応えられない。仕事もしているのに、そんな無理をした結婚生活なんて、送りたくないのだ。
 そんなわたしの、割と身勝手にも聞こえる言葉に、係長は「ああ……」と小さく声を漏らした。そして首に手を当てながら、困ったようにこちらを見遣る。
「……すまない、言い方が悪かった」
「え?」
「望む妻の像は、やはりある。親が共働きだったから、出迎えてくれる存在というのに憧れる気持ちも、確かに強いかもしれない」
「……」
 係長の言葉に、やっぱり、という思いが込み上げる。だけど、と続けられたその声に、意識を持って行かれた。
「俺はそれ以上に、好きな相手と添い遂げたい。神代がいるのなら、家に帰って来るのが楽しくなるだろうし、それが仕事の励みになると思う。神代が帰って来るのなら、出迎える側も良いと思う。
 もちろん飯も出迎えもあれば嬉しいが、なくても構わない。ただ俺は、毎日の生活に、神代の存在が欲しい。お前の顔を見て一日を始めて、一日を終えたい」
「……」
「最初に言っただろ?お前の、平和そうな様子が気になった、って。疲れてても、お前が側にいれば、頑張れる気がするんだ」
 黙って聞いている内に、じわじわと頬が熱くなってきた。ものすごい口説き文句なのに、当たり前のように話す係長が信じられなくて、でも、わたしもどうしようもないかもしれない。
 だってこんなにも、嬉しいのだから。
 自分の存在が、必要とされていること。存在するだけで良いのだと、言われること。それをこんなに真っ直ぐに伝えてくれる人が、いること。その相手が、――係長であること。
 全てが、目眩がするほど、幸福で。

 赤くなったわたしの頬を包む、大きな手。それはゆっくりとわたしを上向かせて、目を合わせた。見慣れない、慈愛にあふれた優しい瞳。
 やっぱりずるいと思う。子犬みたいな顔ばっかり見せた癖に、実は裏では計算していて、今はこんな風に、抱擁力に溢れている。そんな風にギャップを見せつけられると、気付いたばかりの気持ちが、ころころと係長に転がっていってしまうから。

「――好きだ、神代」
 ――ほら、やっぱり

 余裕な態度が悔しくて、腕を伸ばして思いっきり抱き付いてみる。少しだけ驚いたようだけど、揺れることもなく。広い胸に顔を埋めて息を吸い込むと香るのは、今まで知らなかったシトラス系のフレグランス。思った通り、固い筋肉。熱い背中。だけどわたしの身体に回される腕は、優しくて。
「……わたし、本当に掃除とか後片付け、出来ませんし。しませんからね」
 何となくぽつりと呟いた言葉に、係長は小さく噴き出した。
「俺も、本当に料理は出来ないし、しないぞ」
「わたしが好きだから、大丈夫です」
「それなら俺も、掃除は好きだから丁度いい」
 くつくつと笑う、その振動が直に伝わる。重なる体温が信じられないけれど、でも、どうしようもなく嬉しいのだ。
「それにな、神代が掃除が好きじゃないと知って、良かったと思ったんだ」
「え?」
 その温もりに、うっとりと目を閉じそうになった時。係長の言葉に、目を開く。顔を上げると、逆光の中、係長は何だか悪戯っ子みたいに楽しそうに笑っていた。それにまた目を奪われていると、係長はゆっくりと、その笑みを深めて。

 


「お互いがお互いの、苦手分野を補えるなら。俺は、オイシイ関係・・・・・・だと思うんだが」

 神代は、どう思う?なんて。
 少しだけ、子供じみた言葉掛け。
 でもそれはわたし達の関係を、言い当てていると、思ったのだ。

 お弁当から始まって、一緒にご飯を食べて、今度は、お互いの苦手分野を補える。
 そして最後に残るのが、こんなに甘い気持ちならば。

 ――ただし、今度の関係には、『御馳走さま』は言わせないけれど、ね


  

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